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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)352号 判決

被告人

八木岩太郞

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年及罰金三万円に処する。

但右罰金を完納できぬときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

前略

控訴趣意第一点の前段について。

原審は原審公判における被告人の供述、鄭恢の司法警察員に対する供述調書謄本及び田辺正春、江口重忠、大久保昇二(大久保昇は誤記と認む)の被害届又は盜難届を綜合して論旨摘示のような原判決(三)の事実を認定したものであるが、右鄭恢の供述調書謄本によれば同人が被告人に賣つた蒲團の数は八枚と供述しているのに原審公判において被告人は鄭恢から買受けた蒲團の数は九枚と供述しており右双方の供述には一枚の差があること論旨指摘の通りであつて原判決によれば原審公判における被告人の供述を採用していること明かである而して刑事訴訟法第三百十九條第二項において被告人は自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には有罪とされないと規定されているのは一の犯罪事実の全般に亘りこれを組成する各個の事実についても自白以外の証拠を要するという趣旨ではなくその自白が誤ないことを確め得る程度の証拠があればこれと自白とを綜合してその犯罪事実を認定して差支えない趣旨と解すべきである而して右鄭恢の供述は蒲團一枚の差を除いては被告人の自白と一致しているので十分に被告人の自白を支持するに足るものであるから被告人の自白は右(三)の事実について適法な事実認定の資料であることは疑なく從つて原審がその自白によつて事実を認定したことを目して虚無の証拠による認定とするのは当らない。

同上後段について。

次に原審は右冐頭に掲記した証拠を綜合して被告人は右鄭恢から賍物であることを知り乍ら女向明石單衣等衣類約五十八点を買受けたとの事実を認定したものであるが論旨の指摘するように右買受けた衣類の点数については被告人は五、六十点と又鄭恢は五十二点と各供述していて五十八点という証拠は存しない尤も原審は「約」五十八点とその点数に含みをもたせているが証拠に副はぬ認定だとの譏は免れ得ない然しながら右の程度の事実認定の誤は主文に影響を及ぼし得る程度のものでないから結局右の論旨も適法な控訴理由とはいえない。

以下省略

〔註〕 量刑不当により破棄自判

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